📮KURUME LETTER
【研究者インタビュー】医学部産婦人科学講座 津田 尚武 教授
本学の研究活動は多くの研究者により支えられています。このシリーズでは、研究者を中心に、研究内容やその素顔を紹介していきます。
所属部署について教えてください
私の所属する医学部産婦人科学講座は、1928年に久留米大学の前身である九州医学専門学校附属病院として久留米大学病院が設立して以来の歴史があり、間もなく100周年を迎える歴史ある講座です。
産婦人科は、月経発来から妊娠・出産そして老年期の諸疾患にいたるまで、「女性のライフサイクル」におけるあらゆるイベントにかかわり、女性の健康に奉仕する診療科です。
久留米大学病院では、妊娠・出産や不妊症など妊娠に関連した診療を主に「産科」で、婦人科腫瘍や更年期医学などを主に「婦人科」で扱っています。
どのようなことを行っているのですか?
周産期分野:
平成10(1998)年から総合周産期母子センターが開設され、胎児心エコーをはじめとする出生前診断、胎児治療、並びに妊娠と内分泌代謝異常(妊娠糖尿病)などの臨床研究に積極的に取り組んでいます。また、新型出生前診断(NIPT:Non-Invasive Prenatal Testing)も導入しています。
婦人科腫瘍分野:
歴代教授のもと診断、治療、研究の面で国内外に多くの実績を残してきました。さらに内視鏡手術も多く行っており、ロボット支援下手術や高難度の婦人科悪性腫瘍手術にも力を入れています。
生殖医学分野:
平成7(1995)年から現在まで体外受精、胚移植を実施しています。その他、ホルモン補充療法、骨粗鬆症の防止など高齢化社会の到来に備えた女性全般の先端医療を幅広くカバーしています。
女性医学分野:
女性の更年期からのQOLを内分泌学や腫瘍学の立場から専門医外来を開設し、ヘルスケアを総合的に捉えてカウンセリングや治療を行っています。
また、当講座は、日本産科婦人科学会認定専門医修得のための研修施設でもあり、さらに高次の周産期専門医や婦人科腫瘍専門医、生殖医療専門医、女性医学専門医といった資格取得を目指せる場でもあります。
その産婦人科学講座で、牛嶋公生教授の後任として、8代目となる主任教授を拝命しました。産婦人科では「生まれる前の卵の状態から女性が亡くなるまで」のすべてのライフサイクルにお手伝いをさせていただけるという点で、とても魅力を感じていますし、それぞれのステージに応じた寄り添った診療をすることが我々の使命でもあり、やりがいを感じています。
私は主任教授というポジションにいますが、部門のチーフの先生たちや担当班のメンバーと一緒に講座を運営していますので、総合監督のような役割と認識しています。皆さんの個性を生かせるよう、それぞれの方向性を一緒に考えていけたらと思っています。
現在はどのような研究を行っているのですか
私の専門分野は「婦人科腫瘍」で、診療や手術をこの婦人科腫瘍分野で行っています。そこで治療を行っている子宮体がんや子宮頸がん、卵巣癌がんなどを主とした女性の生殖器にかかわる悪性腫瘍が主な研究テーマです。
現在、診療と研究の割合は半々といったところです。今まで自分の歩んできた道を振り返ると、診療、手術、研究をバランスよく経験させていただいて今がありますので、指導していただいた先生や先輩方にとても感謝しています。
今は婦人科の悪性腫瘍に対する薬剤抵抗性を克服するための研究を行っています。中でも、マイクロRNAという短いRNAが私たちが想定したよりも、はるかにいろいろな生体内のメカニズムをコントロールしていることが分かり、このマイクロRNAが、婦人科がんの分野で、どのように薬剤抵抗性に関わっているのかについて研究しています。
私は大学を卒業し産婦人科に入った後、大学院生として、久留米大学の医学部免疫学講座に入り、婦人科癌に対するがんワクチンの研究を担当させていただきました。この大学院での研究生活は自分の人生の中でも貴重な経験となりました。
当時の久留米大学の免疫学講座では、全国各地の大学からいろいろな先生方が来られていて、みんなでがんワクチンの標的抗原の同定を行っていました。そこでがんの「免疫療法」に興味を持ち、指導していただいた伊東恭悟先生の紹介で米国テキサス州のMDアンダーソンCANCERセンターでワクチンの腫瘍免疫の研究に携わることができたことは、とてもありがたく思っています。
マイクロRNAと同時に、がんの腫瘍免疫も脚光を浴びてきており、その腫瘍免疫分野の実験的研究を続けています。
診療や教育に対する思い
診療への思い
臨床診療の現場において、患者さんから感謝の気持ちを伝えられた時は嬉しく、やりがいを感じます。私の頭には、いつも自分が若い頃に診療をさせていただいた患者さんたちからかけてもらった言葉や姿が映像と共に残っています。「先生ありがとう」といった、たくさんの感謝の言葉や、残念ながら癌が進行して、亡くなっていった方たちの「先生頑張りーよ」といった励ましの言葉はずっと脳裏に刻まれています。いつかその方たちに恩返しができればと思い、診療や研究に励んでいます。診療の中でも自分の特性は、手術にあると思っていますので、特に手術の面で社会に貢献ができればと考えています。
また患者さんに接するときには、私だけでなく教室全体にも言えることですが、思いやりと礼節を持って接することを心がけています。また患者さんは女性ですので、その方が自分の祖母や母親そして妻だったりと家族に例えた場合にどのような選択をするだろうかということを常に考えて接するようにしています。
教育への思い
私が学生を指導するときには、単に先生と学生という立場ではなく、母校の後輩として見ています。久留米大学は私の母校であり、自分自身が育てていただいたという思いと感謝の気持ちが強くありますので、母校の後輩たちが自分たちの大学を誇りに思えるような久留米大学をみんなで作り上げていけたらと思っています。
私の研究分野に限らず全ての分野において、科学の進歩に乗り遅れることのないよう、きっちり時代に求められているものを追及することが求められると思います。あわせて後輩をしっかりと育てて、久留米大学に入って良かったと思ってもらい、自身の人生を生き生きと過ごせているというような実感を得てもらうことも大切なことだと考えています。私も含め、個々の力というのはとても小さいものだと思いますので、力を結集してチームとして助け合い、自分一人が成長すればよいと考えるのではなく、お互いの利害を超えてチームとして全体で成長していくんだという思いを持った集団にできればと思っています。
他診療科と連携した学びの場「ワンくる」について
この取り組みは、産婦人科で描く自分たちの夢がベースにありスタートしたものです。例えば卵巣がんの患者さんを治療していて、その手術としてはがんを完全に切除できたとして、自分たちの領域を超えてがんが侵入していた場合、それを全て切除することで患者さんの予後は大きく変わってきます。
他の領域で手術が必要となった時に、専門外だからといって、その先のことは全てお任せするのではなく、自分たちもその領域を知ったうえで全員でワンチームで立ち向かいたい、という思いがありました。自分たちのところで手術した患者さんのその他の領域についても、我々が一から学びなおして理解することで、該当する診療科ときちんとコミュニケーションをとり連携して最後まで責任をもって治療にあたることができるのではないかと考え、始めた取り組みです。
まずは、我々の行う産婦人科の手術とは密接にかかわる大腸外科や心臓血管外科といった分野の先生方に協力いただき、「患者さんの卵巣がんの完全切除の達成」といった一つの目標に向かって徹底的に話し合うような手術の勉強会を重ねてきました。
また、セミナーのような受け身のものではなく「患者さんの予後に寄与する」という目標に向かって自分たちの知りたいことを双方向性に語り合うものにすることで、参加者のモチベーションも高く保てており、他分野の先生方にとってもプラスになるようなものになっていると感じます。もっとその輪を広げていって、お互いに学びあって高め合っていくようなものが、この久留米であれば作り上げていけるのではないかと思っています。
それ以外にも、臨床の分野だけでなく、病理や免疫といった基礎の分野の先生方も交えて腫瘍免疫に関して話し合う「ワンくるR(Research)」、久留米大学外の先生との学びの場「ワンクくる+(プラス)」といった、分野や組織は違っても同じテーマでつながりを持ち一つになれるような取り組みを進めています。
これは、久留米大学の講座間の垣根の低さ、診療科同志の連携、横のつながりがあるからできることだと思いますし、そういった魅力をこれから本学で学ぼうとする皆さんにも是非知ってもらい、久留米大学ならしっかりいろいろな分野のことを仲間と共に学べると思ってもらえるように「ワンくる」を育てていけたらと思っています。
休日の過ごし方や気分転換など
休日の過ごし方について
休日は家族と過ごしてます。体を動かすことが好きで、学生の時は合気道をやっていました。スキーやスノーボードなどのウインタースポーツも好きで、内科学講座(消化器)の川口巧先生とは一緒に学生時代にスキーに行ったこともあります。
あとは、アカシアやユーカリなど葉っぱの綺麗な植物が好きで、家で育てています。家のベランダが植物だらけになってしまい家族から怒られています(笑)
行き詰まったときの気分転換は?
挫折することも多くありますし、そこから立ち直っての繰り返しで、家族や周りのサポートに支えられています。全ての事には理由があると思っていて、今きつくても、きっとこのことには理由があると、理由が分かるまではくじけないよう自分に言い聞かせています。
行き詰まったら、自転車でサイクリングをして気分転換をしたり、歴史が大好きで歴史書を読んだりしています。歴史上の人物から生き方を学ぶことも多く、特に尊敬してる柳川の立花宗茂公の義や筋を通す生き方には影響を受けていて、何か色々判断に迷ったときの判断に参考にさせていただく事もあります。
久留米大学が「地域の『次代』と『人』を創る研究拠点大学」を目指していることについて
学生のときは、恐らく国家試験のことで頭がいっぱいで、ストレスを抱えることも多いと思います。
そんなときに自分一人で頑張りすぎたり、こもったりすることもあると思いますが、周りで困っている仲間を助けていろいろ教えあうことのほうが、回り道のようで実は近道だということもあるように思います。教えることによって、アウトプットとして自分の頭に入り、逆に仲間からも助けてもらうことも多くなるでしょう。
周囲の仲間と共に学び伸びていく。そして医師になり診療に携わる中でも、あの時やっていたことはここに繋がっていたんだと認識し、周りの同僚と共に成長していき、後輩を育て、次の世代を育んでいく、その連鎖が続くことが大切なのではないかと思っています。
そういった周りと成長していく、人を育む環境が久留米大学にはあると思います。
研究者や医師を目指す方へメッセージをお願いします。
医師は多くの人々のために尽くすことのできるやりがいのある仕事です。国家試験の合格をゴールとして知識を詰め込むのではなく、この勉強は将来人のために役立てる知識を身につける機会なんだということを意識して前向きに学んでいってほしいと思います。その中で自分の長所や得意なことが見えてくると思いますので、自身の特性を知りそれを生かせる道を目指して焦らずに進んでいってほしいと思います。
略歴
1997年 久留米大学医学部産科婦人科学教室入局
久留米大学病院・国立小倉病院勤務
2004年 米国テキサス大学 MD Anderson Cancer Center へ留学(2年間)
2015年 久留米大学医学部産婦人科学講座 講師
2021年 久留米大学医学部産婦人科学講座 准教授
2023年 久留米大学医学部産婦人科学講座 主任教授